KDDIが避難所に無償提供する「Starlink」

KDDIの報道発表

KDDIは1月7日に令和6年能登半島地震に関する報道発表を致しました。
以下に本記事に大切な部分を引用いたします。
(KDDIの2024年の報道発表はこちら)

KDDIは、スペースXの日本法人であるStarlink Japan合同会社と協力し、衛星ブロードバンドStarlinkを石川県能登半島の避難所などに無償で提供します。

両社は2024年1月7日に、350台のStarlinkを石川県県庁舎に搬入しました。

スペースXとKDDI、 能登半島の避難所にStarlink 350台を無償提供

ざっくりと言ってしまえば、【能登半島の避難所でインターネットがすぐに使えるようになる】というものです。

これから先では、以下の点に関して掘り下げていきます。
・能登半島地震での通信障害
  ・インターネットの繋がり
  ・長引く通信障害
・Starlinkとは何なのか
  ・Starlinkの概要
  ・Starlinkの機器仕様

能登半島地震での通信障害

地震の影響によって携帯電話各社で2024年1月1日16時10分頃~同年同月9日現在で通信障害が発生しております。ここで、各社の現時点での発表を見てみましょう。

NTTdocomo

(1)発生日時
2024年1月1日(月曜)午後4時10分頃から継続中

(2)影響エリア
石川県 七尾市、珠洲市、輪島市、鳳珠郡(穴水町・能登町)

以下のエリアは復旧いたしました。
石川県 羽咋郡志賀町
新潟県 糸魚川市

(3)対象サービスと影響
携帯電話サービス(音声通話・データ通信)が一部のお客さまにおいてご利用できない状況、またはご利用しづらい状況が発生しています。
 ・ドコモ
 ・ドコモ回線利用MVNO
※緊急通報もお客さまによりご利用できない状況、またはご利用しづらい状況となっております。

(4)復旧見通し
確認中

(5)原因
地震の影響による停電、伝送路故障など

(6)お客さまからのお問い合わせ先
・スマートフォン、PCから: 別ウインドウが開きますドコモおたすけロボット
(受付時間:24時間・年中無休)

・ドコモ携帯電話から:113 一般電話などから:0120-800-000 (受付時間:24時間・年中無休)

(7)本地震に伴うそのほかのサービス影響
・衛星携帯電話の影響:なし

【災害影響】令和6年能登半島地震の影響により、一部エリアで携帯電話サービスがご利用できない、またはご利用しづらい状況について(第28報:1月9日午後2時00分時点)
docomo能登半島、通信復旧エリアマップ
Softbank

1.日時
 2024年1月1日(月) 午後4時10分頃から継続中

2.影響エリア
 以下エリアの一部で影響が出ています。
 石川県 輪島市、珠洲市、鳳珠郡能登町

 以下のエリアにつきましては復旧しました。
 石川県 金沢市、七尾市、羽咋郡志賀町、鳳珠郡穴水町
 新潟県 糸魚川市、上越市

 復旧エリアマップはこちら(PC向け)
 復旧エリアマップはこちら(スマートフォン向け)

※通信ネットワークの復旧活動の状況はこちら

3.対象サービスと影響
 ・携帯電話サービス(ソフトバンク、ワイモバイル、LINEMO)
 ・SoftBank Air
 ・おうちのでんわ
 ・ソフトバンク回線利用MVNO
 上記の通話サービス(音声通話、データ通信、SMS)がお客さまによりご利用できない状況、またはご利用しづらい状況が発生しています。
 ※緊急通報もお客さまによりご利用できない状況、またはご利用しづらい状況となっております。

4.原因
 地震の影響による停電および伝送路支障など

令和6年能登半島地震の影響により携帯電話サービスがお客さまによりご利用できない状況、またはご利用しづらい状況について(1月9日午後1時時点)
Softbank通信復旧エリアマップ3G回線
Softbank通信復旧エリアマップ4G回線
KDDI(au)

1.日時
2024年1月1日(月)午後4時10分頃から継続中

2.影響エリア
以下のエリアの一部で影響が出ています。
石川県 輪島市、珠洲市、鳳珠郡能登町

以下のエリアにつきましては復旧しました。
新潟県
石川県 七尾市、羽咋郡志賀町、鳳珠郡穴水町

詳細はページ最下部の「復旧エリアマップ:石川県」をご参照ください。

3.対象サービスと影響
上記影響エリアのお客さまにて、au、UQ mobile、povo、au回線利用MVNOの通信サービスがご利用できない状況、またはご利用しづらい状況となっております。
※緊急通報もお客さまによりご利用できない状況、またはご利用しづらい状況が発生しております。

4.復旧見通し
現地状況を確認中

5.原因
地震に伴う基地局の停電および基地局までの伝送路の故障等

【地震の影響】令和6年能登半島地震の影響により携帯電話がご利用できない、またはご利用しづらい状況について(1月9日午後2時00分時点)
KDDI復旧エリアマップ、こちらを加工して作成
KDDI移動基地局マップ、こちらを加工して作成

以上のように災害発生から1週間以上たった今でも復旧が難しい地域があるのです。
このように、通信障害が起きることについて考える前に、インターネットの繋がりについて確認しましょう。

インターネットの繋がり

インターネットにつながるとき、皆さんの家の事を考えてみましょう。
家からインターネットにつながる時にはルーターというものを用意しているはずです。
そのルーターに有線もしくは無線でスマホやパソコンをつないでいると思います。

ルーターから直接家の端子につながっているわけではなく、回線終端装置(ONU)と呼ばれる機械を通じて家の端子に繋がっているはずです。

家の外壁から伸びた配線は電柱あるいは地下を通ってインターネットの回線業者(ISP)に繋がります。
インターネットの回線業者自体も、より上位の回線業者から株分けのような形で繋がっていたりします。
大規模で独立的な回線網を持っている回線業者をTier1と呼び、世界では数えるほどしかありません。

Tier1もしくは準ずる大きな回線事業者は国内に物理回線網を持っております。
これはインターネット黎明期の平成11年での情報白書のインターネット回線網の敷設図です。

この物理回線の中を信号が通ることで通信が行われているわけです。

長引く通信障害

通信会社各社の発表では通信障害の原因は主に以下の2点でした。
・停電による基地局の停止
・地震による伝送路の故障

通信障害からの復旧には
・停電の復旧
・伝送路の修理(あるいはケーブル交換)
が必要になるということです。

まずは停電の復旧について見ていきましょう。

停電の復旧

日本国内において地震と津波の両方を襲うような災害として記憶に新しいのが東日本大震災

東日本大震災では停電の復旧までどれほどかかったのかを調べてみますと、内閣府防災情報のページに「3月11日の地震により東北電力で発生した広域停電の概要」という資料で見ることができます。

発災後 3日で約80%※の停電を解消
発災後 8日で約94%※の停電を解消 ※復旧作業に着手不可能な地域を含む
6月18日11時3分に 復旧作業に着手可能な地域の停電はすべて復旧

3月11日の地震により東北電力で発生した広域停電の概要

着手可能な地域では遅くとも発災から約3ヶ月かかって停電から復旧したとの記述がありました。
また、日本土木学会地震工学委員会でも「東日本大震災におけるライフライン復旧概況(時系列編)」との資料にまとめてあります。

今回の能登半島地震でも地震・津波の被害が生じており、停電の復旧にも相当な日数がかかると思われます。
基地局の復旧は停電からの復旧が絶対条件となるため、同様に復旧に日数を要すると予想できるのです。

伝送路の修理(あるいはケーブル交換)

伝送路の故障として最も簡単に考えうるものは【光ファイバーケーブルの断線】である。
実際に今回の能登半島地震では火災による光ファイバー網の焼失が発生しているとの報道がある。

能登半島の光ファイバー網が物理破損していると仮定し、その全域を再敷設するのにどれほどのコストがかかるのかを想像していく。

東京大学人文地理学研究の文献「条件不利地域におけるブロードバンド整備の現状と政策的対応」を参考にさせていただく。
この文献では、広島県大崎上島町での光ファイバー網整備事業の記録があり、
・実施年 :2001~2003年度
・総事業費:15億9千万円
・光ケーブル総延長:36,701m
・加入数:1,064
・世帯加入率:23.1%
との記載がある。

大崎上島町の面積は43.11㎢であり、能登半島地震での通信障害地域よりも小さい面積である。
つまりは、光ファイバー網の再敷設には少なくとも【2年に跨る期間・15億円以上】のコストがかかるものと考えられる。

通信障害のまとめ

以上のことより、能登半島地震での通信障害からの復旧には多大な期間・費用がかかるものと考えられる。
通信網の再整備を待たずして通信を可能にする施策が必要である事は想像に難くない。

Starlinkとは何なのか

KDDIの報道発表ではStarlinkを避難所などに無償提供するとのことでした。
Starlinkは被災地域の物理回線網の復旧を待たずにインターネットを利用することができる画期的なサービスです。
ここで、Starlinkの概要をまとめます。

Starlinkの概要

衛星と地上のアンテナ

Starlinkのシステムは、地上の基地局から送信された信号を低軌道にある衛星群が受信し、中継して目的地の受信機に送信します。
すでに4,000を超える衛星が地球の周りを回っていて、それらが代わる代わる地上のアンテナに電波を飛ばしています。

専用のアンテナとWi-Fiルーター

Starlinkを利用するためには専用のアンテナを購入する必要があります。
2024年1月現在では標準アンテナは55,000円というお値段のようです。

55,000円の内容物は
・人工衛星に向けるアンテナ
・土台
・ACアダプター
・無線ルーター
・アンテナと無線ルーターを繋ぐケーブル
とのことです。

なお、有線でインターネットにつなぐためには別途変換器の購入が必要なようです。

利用可能エリア

Starlinkが使える国や地域はAvailabilityMapで確認することができます。
2024年1月9日現在では日本ではほぼ全域で利用することが可能です。

料金

一般利用者向けのプランは以下の二つがあります。

  • レジデンシャル(固定住所での利用プラン):月額6,600円
  • ROAM(持ち運びの利用プラン):月額9,900円

この他に法人向けプランや海上プランがございます。
この場での紹介は割愛しますが、気になる方はこちらをご覧ください。

速度

Starlinkは公式で、レジデンシャルプランの下り速度の目安を「50~200Mbps」と出しています。
この速度は、現在の日本においては『ポケットWi-Fi』や『コンセントに差すだけインターネット』と同等以上の通信速度です。
FPSなどのオンラインゲームでなければ快適に利用できる速度だと言えるでしょう。

以上がStarlinkの基本的な仕組みと特徴です。
これにより、山奥や離島といった配線整備がなされていない地域でも、高速低遅延インターネットが使えるようになります。
また、今回のような災害時の繋ぎ通信としても十分なサービスだといえるでしょう。

Starlinkの機器仕様

アンテナの仕様

Starlinkの標準機器の仕様は以下の通りです。

アンテナ電子フェーズドアレイ
初期設定電動自動方向調整機能
環境評価IP54
融雪能力最大 40mm / 時間
動作温度-30°C ~ 50°C (-22°F ~ 122°F)
視野100°
平均電力使用量50-75W
Starlink仕様

IP54とは
・粉塵の侵入を完全には防がないが機器の動作に問題はない
・あらゆる方向からの水しぶきに耐えることができる

人工衛星との通信を行うだけあって、屋外での利用に充分に耐えうる性能であることが分かります。

ルーターの仕様

付属する無線ルーターの仕様は以下の通りです。

Wi-FiテクノロジーIEEE 802.11a/b/g/n/ac規格
世代Wi-Fi5
無線デュアルバンド – 3 x 3 MIMO
安全WPA2
環境評価IP54、屋内使用向けに構成
範囲最大 185 平方メートル (2000 平方フィート)
動作温度-30°C ~ 50°C (-22°F ~ 122°F)
Starlink仕様

また、製品仕様書には同時接続可能端末数が128台との記載がありました。
小さな事業所ぐらいであれば法人の通信も賄うことができそうです。

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